生態系への影響Effects on Ecosystem

(2016年 更新)

福島県の野生生物に、放射線による突然変異は増えていますか。

国立環境研究所は、放射線によるDNAの傷を見ることができる植物および培養細胞を開発しました。
この培養細胞を用いた実験により、2016年10月時点で、帰還困難区域の99.5%のエリアで野生生物のDNA変異増加の心配はないと考えられます。

  • 生物は壊れたDNAを修復する仕組みを持ちます。突然変異は「DNA損傷量と修復量のバランス」が崩れると現れます。
  • 放射線で生じる二本鎖損傷は相同組み換え修復により修復されます(図1)。
  • この研究では植物に、「二本鎖損傷→修復」が起きると、細胞が発色するような仕掛けを導入しました(図2)。
  • この植物に由来する培養細胞を用いてDNA損傷量と修復量のバランスを調べたところ、毎時16µSvでは修復量が上回っていました(図3)。これは帰還困難区域の99.5%の場所で野生生物のDNA変異増加が起きないことを示しています(図4)。

図1 二本鎖損傷と相同組み換え修復

図1 二本鎖損傷と相同組み換え修復

二本鎖損傷が起きたDNAは、相同DNA(同一か類似の配列を持つDNA)を利用して修復されます。


DNAの傷の修復を見ることができる植物

図2 DNAの傷の修復を見ることができる植物

DNAの二本鎖損傷が起き、その損傷が修復された細胞が発色しています。

被ばく線量とDNAの傷との関係

図3 被ばく線量とDNAの傷との関係

およそ毎時16µSvまでの被ばく線量の場合、DNA修復量は被ばく線量に応じて増加しており、被ばく線量に応じて増加するDNA損傷が修復されている(=損傷量に対して修復量が上回っている)ことが分かります。

2016年11月における突然変異蓄積リスクマップ

図4 2016年11月における突然変異蓄積リスクマップ

99.5%の地域においては、野生生物のDNA変異増加は起きないと考えられます。
注:全ての生物についてDNA修復効率が調べられているわけではありませんが、DNA修復機構は生命維持の根幹をなすものであり、生物間で大きな違いはないと考えられます。