なぜ放射性セシウムを研究対象としたのですか?Why Radioactive Cesium?

なぜ放射性セシウムを研究対象としたのですか?

放射性セシウムは他の放射性物質より半減期が長く、事故によって環境に放出されたと考えられる量が多かったため、被ばく線量への影響が大きいと考えられたことが理由です。

東京電力ホールディングス株式会社 福島第一原子力発電所の事故により、原子炉内で生成された様々な放射性物質が環境に放出されました。
これらの放射性物質ごとの被ばくに対する相対的な重要度を知る目的で、IAEA(国際原子力機関)が提案している方法を用いて、「沈着濃度が最大の地点に、人間が50年間立ち続けた場合」という極端な条件下での被ばく線量が試算されました。

核種名 半減期 最大濃度
(Bq/m2)※1
50年間の積算実効線量
計算結果(mSv)
セシウム134
134Cs)
2.065 年 1.4×107 710
セシウム137
137Cs)
30.167 年 1.5×107 2,000
ヨウ素131
131I)
8.02 日 5.5×104 0.015
ストロンチウム89
89Sr)
50.53 日 2.2×104 0.00061
ストロンチウム90
90Sr)
28.79 年 5.7×103 0.12
プルトニウム238
238Pu)
87.7 年 4.0 0.027
プルトニウム239+240
239Pu+240Pu)
2.411×104 15.0 0.12
銀110m
110mAg)
249.95 日 8.3×104 3.2
テルル129m
129mTe)
33.6 日 2.7×106 0.6

※1: 平成23年6月14日時点に放射能濃度を換算

その結果、他の放射性物質より半減期が長く、濃度が高い等の理由により、セシウムのうち時間とともに崩壊して放射線を発する「放射性セシウム」であるセシウム137(137Cs)及びセシウム134(134Cs)が、他の放射性物質より被ばく線量に寄与することが推定されました。
また、今後の被ばく線量評価や除染対策にはこれらの放射性核種に着目していく事が適切であるとされました。
これらのことから、私たちが行っている環境動態研究ではセシウム137とセシウム134を主な対象としています。

なお、弱いベータ線を発するトリチウム(三重水素)については外部被ばくの影響はなく、水として存在するため、内部被ばくについても体内への蓄積は限られていると考えられます。
しかし、細胞内への蓄積(有機結合体としての取り込み)の影響については十分な評価に至っていないことから、引き続き研究が必要です。