生態系への影響Effects on Ecosystem

(2020年 更新)

湖水と魚類の放射性セシウム濃度は季節によって変わりますか。<茨城県霞ケ浦における調査結果>

国立環境研究所は、福島第一原子力発電所事後から5年間にわたり、茨城県霞ヶ浦(西浦)において湖水中(溶存態)の放射性セシウム濃度の観測を行いました。
その結果、他の季節と比べると、夏に湖水中の放射性セシウム濃度がわずかに高くなることが明らかになるとともに、魚類に含まれる放射性セシウム濃度もわずかに高くなる傾向が認められました(ただし飲料水や水産物中の放射性物質の基準値を大きく下回っています)。

湖水と魚類の放射性セシウム濃度の変化イメージ

図1 湖水と魚類の放射性セシウム濃度の変化イメージ
湖水中及び魚類に含まれる放射性セシウム濃度は、季節変動しながらゆっくり減少しています。


霞ヶ浦3地点における(a)毎月の表層水温、(b)毎月の底層の溶存酸素濃度の変化、(c)季節ごとの湖水中の溶存態放射性セシウム137濃度の変化

図2 霞ヶ浦3地点における
(a)毎月の表層水温、(b)毎月の底層の溶存酸素濃度の変化、(c)季節ごとの湖水中の溶存態137Cs濃度の変化

 薄い赤色の縦帯は夏(6~8月)を示す。

2011年から2016年にかけて、霞ヶ浦の3箇所(湖心・高浜入・土浦入)において、毎月の水温や溶存酸素量等の環境測定に加えて、季節ごとに表層水(0~2mの水柱)の採水を行い、湖水中に含まれる溶存態の放射性セシウム濃度を測定しました。

調査の結果、いずれの地点でも、夏に表層水温の上昇、底層(底から10cm前後)の溶存酸素濃度の低下が確認されました(図2a, b)。

湖水中の放射性セシウム濃度は、福島第一原子力発電所事故後から1~2年で大きく減少し、その後、夏にわずかに高くなるような季節変動をしながらゆっくり減少していることが分かりました(図2c)。


霞ヶ浦3地点における湖水中の溶存態放射性セシウム濃度と底層の溶存酸素濃度の関係

図3 霞ヶ浦3地点における湖水中の溶存態137Cs濃度と底層の溶存酸素濃度の関係

湖水中の放射性セシウム濃度の変動について解析を行ったところ、底層の溶存酸素濃度と湖水中の放射性セシウム濃度との間に有意な負の相関が認められました(図3)。また、底層の溶存酸素濃度の変化が湖水中の放射性セシウム濃度に影響を与えていることが確かめられました。

風による巻き上げ、河川からの流入も湖水中の放射性セシウム濃度に影響する要因として考えられますが、風速と底層の溶存酸素濃度、風速と湖水中の放射性セシウム濃度、主要河川流量と湖水中の放射性セシウム濃度の間には有意な相関関係は認められませんでした。

以上の結果から、霞ヶ浦では、夏に底層の溶存酸素濃度の著しい低下が起きた際に、底泥から放射性セシウムの溶出が起こっていることが示唆されました。
ただし、底泥からの溶出によって放射性セシウム濃度が上昇しても、飲料水の基準値である10Bq/Lを大きく下回っている等、日常の水利用(飲料水用や灌漑水用等)に全く問題ない状況にあります。


(a)霞ヶ浦で採集されたワカサギに含まれる放射性セシウム137濃度の時間的変化、(b)ワカサギの放射性セシウム137濃度の季節ごとの違い、(c)湖水中の放射性セシウム137濃度とワカサギの放射性セシウム137濃度の関係

図4 (a)霞ヶ浦で採集されたワカサギに含まれる137Cs濃度の時間的変化
(b)ワカサギの137Cs濃度の季節ごとの違い
(c)湖水中の放射性137Cs濃度とワカサギの137Cs濃度の関係

霞ヶ浦のような浅い富栄養湖では、表層水温が上昇する夏の間、一時的な成層が生じ、底層は貧酸素状態になります。しかし、一旦強風が吹いたり、表層水温の変化によって、成層がくずれ、再び表層と底層が混合します。

深い湖と異なり、成層と混合が頻繁に起こることによって、放射性セシウムの水中に溶出、溶出した放射性セシウムの表層へ移動が繰り返し起こっていると推察されます。

本研究では、浅い湖沼においても放射性セシウムの溶出が起きうること、溶出した放射性セシウムが湖水中および魚類中の放射性セシウム濃度の季節変動に影響を与える可能性を指摘しました。

これらの成果は、魚類の長期的な低濃度放射能汚染の要因解明につながることに加え、放射性セシウム動態予測の精度の向上にもつながると予想されます。魚類などの水産物が出荷制限となっている場合、今回明らかになったような季節変動を考慮することで、より確度の高い出荷制限解除の予測などが可能になると考えられます。

浅い湖沼では、底層の酸素環境は短い時間スケールでダイナミックに変動することから、今後、時間単位や日単位で、底層の溶存酸素濃度、湖水中の放射性セシウム濃度や関連するその他の項目を高頻度で観測することで、詳細なプロセスやメカニズムを解き明かすことができると考えられます。

(国立環境研究所の研究成果)