放射性物質の動き-河川水系Radioactivity Dynamics in River System

(2024年 更新)

湖やダムなどの底にたまっている放射性セシウムが溶け出して、下流域の生態系や営農に影響を与えませんか。

湖やダムなどの湖底では有機物の分解に伴いアンモニウムイオンが生成し、アンモニウムイオンとセシウムがイオン交換することで湖水中にセシウムが溶け出すと考えられます。溶け出す量は微量のため、湖水の放射性セシウム濃度が少し上昇するものの、既に営農を再開している地域の農作物への影響は確認されていません。

東京電力福島第一原子力発電所事故から10年以上が経過し、水圏生態系の放射性セシウム(137Cs)濃度は全体的に大きく低下していますが、福島県内の一部の河川・湖沼では、現在も淡水魚の出荷制限措置が継続しています。特に上流域から高い濃度の137Csを含む土砂の流入が継続している貯水池では、堆積物(底質)から池水への137Csの再溶出や溶出した137Csの食物連鎖を介した淡水魚への濃縮の長期化が懸念されています。そのため、本研究では底質から池水への137Csの再溶出のメカニズムを、底質中に含まれる水(間隙水)の水質の変動要因と併せて考察しました。

調査は2019年7月に福島県浪江町の大柿ダムで行いました。池水試料は、メンブレンフィルターを用いてろ過し、放射能や水質の測定を実施しました。一方、底質試料からは、深さ方向に1 cm間隔で間隙水を抽出し、池水試料と同様に放射能や水質の測定を実施しました。

底質と間隙水の放射能濃度と水質

図1 底質と間隙水の放射能濃度と水質
(a)底質と間隙水の137Cs濃度、(b)137CsのKd値、(c)間隙水の水質です。
間隙水の137Cs濃度やアンモニウムイオン(NH4+)は深度が深くなるにつれて上昇することが分かりました。

放射能分析の結果、間隙水の137Cs濃度は池水の溶存態137Cs濃度(0.07~0.83 Bq/L)よりも有意に高く、深度が深くなるにつれて上昇しました(図1(a))。一方、底質の137Cs濃度は 5.2×104~2.0×105 Bq/kgであり、底質と間隙水の間における137Csの分配係数(Kd値、底質中と間隙水中の濃度の比)は深度が深くなるにつれて低下しました(図1(b))。また、水質分析の結果、セシウムイオン(Cs+)と同じ1価の陽イオンであるカリウムイオン(K+)は 0.04~0.11 mmol/Lであるのに対し、アンモニウムイオン(NH4+)は 0.24~1.22 mmol/Lと深度が深くなるにつれて上昇しました(図1(c))。

137CsのKd値とアンモニウムイオン(NH4+)の関係

図2 137CsのKd値とアンモニウムイオン(NH4+)の関係
Kd値とNH4+とは有意かつ負の相関があり、ヨーロッパ(4地点)の先行研究例(Comans, R.N.J. et al.*)と比較すると、大柿ダムの底質は137Csを溶出しにくい性質があることが分かりました。

Kd値はCs+の主要な競合陽イオンであるNH4+と有意かつ負の相関を示しました。これはイオン交換により底質に吸着していた137Csが再溶出し、間隙水の137Cs濃度が高くなったことを示唆しています。しかしながら、図2に示した諸外国の例に比べて、大柿ダムの底質は137Csを溶出しにくい性質(同様のNH4+の場合、Kd値が高い傾向)を有していることも併せて明らかとなりました。
今後、上記のような再溶出メカニズムを、淡水魚の放射能濃度の長期予測評価に反映し、出荷制限措置の解除に向けた対策検討の一助となるように成果を統合していく予定です。

*Comans, R.N.J. et al., Interpreting and Predicting in Situ Distribution Coefficients of Radiocaesium in Aquatic Systems, Studies in Environmental Science, vol.68, 1997, p.129-140.

(「原子力機構の研究開発成果2023-2024」より)