放射性物質の動き-河川水系Radioactivity Dynamics in River System

(2019年 更新)

土壌およびそれに付随する放射性セシウムは、事故後どの程度海へ流出したのですか。【解析事例】

福島県東部の阿武隈川流域及び浜通り主要河川水系では、放射性セシウムのうちセシウム137(137Cs)は70%が森林に、次いで田を含む農地に多く沈着し、事故後の半年間でおよそ29TBqが海へ流出したと推定されています。その後は流出するセシウム量が急速に低下し、現在も低下傾向が続いています。
放射性セシウムの海への流出は、畑地からの寄与が約5割を占めており、次いで森林、水田の順と推定されました。

● 河川ごとの流出量

  • 山口ほか(2013)は、河川流域からの土壌及び放射性セシウムの流出量の年平均値を算出するために、国際的に認知されている土壌流亡式を基礎とした計算モデル『SACT(Soil and Cesium Transport)』を開発しました。
  • SACTを利用した解析の結果、阿武隈川および浜通り地区に位置する河川から海への、事故後1年間の137Csの流出量は8.4TBqと推定されました(表1)。パラメータの不確実性を考慮すれば、この推定値には1オーダー程度の誤差があると考えられます(Yamaguchi et al.(2014)の感度解析結果より0.7~10.2TBq/年)。また、河川やダム湖への直接沈着を考慮しなかったことから、沈着直後の流出率を過小に推定している可能性があります(Kitamura et al., 2014)。

表1 一年間に各流域から海に流出した土壌および137Csの総量

河川 流域面積 (km2) 海への流出土砂量 (t/y) 海への流出137Cs量 (Bq/y) 平均の土砂付着137Cs濃度 (Bq/kg)
阿武隈川 5,423 2.4 ×105 3.0 ×1012 1.2 ×104
請戸川 420 2.7 ×104 2.0 ×1012 7.2 ×104
新田川 261 1.6 ×104 1.1 ×1012 6.5 ×104
前田川 48 1.6 ×103 4.0 ×1011 2.5 ×105
熊川 74 2.5 ×103 2.8 ×1011 1.1 ×105
太田川 79 1.7 ×103 2.7 ×1011 1.6 ×105
真野川 167 5.5 ×103 2.0 ×1011 3.7 ×104
木戸川 260 1.5 ×104 1.4 ×1011 9.0 ×103
小高川 67 2.5 ×103 1.3 ×1011 5.3 ×104
富岡川 63 2.0 ×103 1.1 ×1011 5.8 ×104
夏井川 685 4.2 ×104 1.1 ×1011 2.6 ×103
鮫川 592 5.1 ×104 8.9 ×1010 1.7 ×103
井手川 40 3.0 ×103 6.9 ×1010 2.3 ×104
宇田川 173 2.4 ×103 6.4 ×1010 2.6 ×104
全域 8,352 4.2 ×105 8.4 ×1012 2.0 ×104

● 土地利用ごとの流出量

  • 土地利用区分ごとの土壌及び137Cs流出量(表2)をみると、畑地からの寄与が約5割を占めており、次いで森林、水田の順と推定されました。

表2 土地利用区分ごとの土壌流出量および137Csの動態

(Kitamura et al., Anthropocene, 2014)

山口ほか(2013)の推定は、事故から間もない時期に行われたものでした。Sakuma et al. (2019)は、その後、原子力機構などによる調査によって蓄積された河川水の浮遊土砂濃度や放射性セシウム濃度の観測データを利用し、セシウム流出量の再評価を行いました。
このとき、SACTに比べて計算の簡便なタンクモデルに基づいた計算モデルMERCURYを別途開発し、適用しました。

再評価の結果、事故後の半年間(2011年9月まで)でおよそ29TBqが海へ流出したと推定されました。
この量は、2017年12月までに海へ流出した137Cs量の約6割を占めますが(図1)、原子力発電所からの直接流出や大気経由で海面に沈着した137Cs量に比べると、100分の1未満となっています。

  • 事故後の半年間および2017年12月までの河川から海への137Cs流出量

    図1 事故後の半年間および2017年12月までの河川から海への137Cs流出量

  • 事故直後から約半年間の海への137Cs流出量の比較

    図2 事故直後から約半年間の海への137Cs流出量の比較