根拠情報Q&A|答えます!みんなが知りたい福島の今|JAEA

放射性物質の動き-森林Radioactivity Dynamics in forests

(2021年 更新)

森林-河川生態系を移動する放射性セシウムの動きはどこまでわかっていますか。

様々な生物が棲む森林の表土では生物群集内の栄養循環により放射性セシウムが循環し、水の流れがよどむ淵やダムなどでは水流により移動した放射性セシウムが集まります。これらの場所では、放射性セシウムが長期的に留まる一方、生物・水・土砂などの移動を通してじわじわと移動します。今後は、森林の表土や水のよどみに集まった放射性セシウムをどう管理するかが、森や川の恵み、下流域への影響を軽減する鍵になると考えられます。

国立環境研究所、東京農工大学らの研究チームは、福島第一原子力発電所事故から10年の間に発表された約90報の学術論文をレビューし、汚染地域の最も主要な景観である森林、そして森林と人々の生活圏を結ぶ河川での放射性セシウムの動きを網羅的に調べました。

福島第一原子力発電所から放出された放射性セシウムは、周辺の森林・農地・居住地などを広く汚染しました。中でも森林は、放射性セシウムによって汚染された地域の最も主要な土地景観です。福島第一原子力発電所から放出された放射性セシウムのうちイオン態(Cs)のものは、生物体内へ取り込まれやすく、現在でも様々な動植物体内に取り込まれては排出されるサイクルが継続しています。事故当時、落葉広葉樹林は落葉していたため放射性セシウムは主に表土へ直接降下しました。一方、枝葉を残していた常緑針葉樹林では放射性セシウムが主に枝葉に沈着しましたが、時間の経過とともに落葉などにより表土に集まりました。

森林の表土で生じる放射性セシウムの動き

図1 森林の表土で生じる放射性セシウムの動き

表土に蓄積した放射性セシウムは、植物の根や菌類の菌糸から吸収され森林内を循環したり、動物の摂食・排出活動による食物連鎖を循環したりして長期間表土にとどまります。また、表土内の放射性セシウムの一部は、雨水浸透に伴って表層の腐葉土よりも深い土層にもゆっくり移動しています(図1)。一般に、植物内の放射性セシウム濃度が腐葉土の放射性セシウム濃度を超過することは稀であり、腐葉土から始まる食物連鎖(腐食連鎖)は、生きた植物から始まる食物連鎖(生食連鎖)より多くの放射性セシウムを移動させていると考えられます。この腐食連鎖を通した放射性セシウムの循環により、野生動物や食用植物・キノコなどの森の恵みの一部では高い放射性セシウム濃度を示し、出荷制限の基準を超過することも少なくありませんでした。

森林に蓄積した放射性セシウムは、降水や落葉に伴って森林から河川へと移動しています。森林内を流れる河川は一般に日当たりが悪く、河川内で生産される付着藻類が少ないため、森林から供給される落ち葉が食物連鎖の土台を主に支えています。そのため、汚染された落ち葉を動物が摂食し、さらに捕食者がその動物を摂食することで河川に生息する様々な動物に放射性セシウムが移行します。ところが、河川に沈んだ落ち葉は、溶脱により森林の表土に落ちた落ち葉よりも放射性セシウム濃度が低くなっていました(図2)。この傾向は、汚染直後や放射性セシウムの降下量が多かった地域で特に顕著であり、その結果、食物連鎖上位の動物の放射性セシウム濃度は、河川では森林よりも低くなっていました。原子力発電所事故から10年経った現在、放射性セシウムが直接沈着した枝葉は既に落葉しており、より放射性セシウム濃度が低い新しい枝葉に由来する落ち葉が供給されていることを考えると、このような森林と河川の違いは小さくなっていると予想されます。一方、落葉広葉樹では常緑針葉樹よりも根から放射性セシウムを吸収しやすい傾向も認められ、現在の落ち葉の放射性セシウム濃度は、同じ地域で比較したときに落葉広葉樹林で常緑針葉樹林よりも高いと考えられます。

河川内で生じる放射性セシウムの動き

図2 河川内で生じる放射性セシウムの動き

河川へ流入した放射性セシウムは、水の流れに乗って移動しています。そのため、水の流れが遅い場所では、放射性セシウムが蓄積しやすいことが示されてきました(図2)。例えば、流れの速い瀬よりも流れの遅い淵で河床に放射性セシウムが多く蓄積し、同じ種類の昆虫を比較すると、淵に棲む昆虫の放射性セシウム濃度が高いことも報告されています。また、貯水ダムなど極端に流速が遅くなる河川区間では、放射性セシウムがより多く蓄積しています。このような場所は、放射性セシウムを貯める効果がある一方、貯まった放射性セシウムの一部が湖底堆積物から溶け出して下流へ流出しています(図2)。このように、流れの遅い場所は、放射性セシウムを溜めながらも下流域へじわじわと放射性セシウムを供給することが懸念されます。

以上のように、森林-河川生態系では、特に森林の表土や流れの遅い河川区間に放射性セシウムが集まり、放射性セシウムの貯留場所となると同時に供給源となることがわかりました。これらの場所からそこに生息・生育する動植物へ放射性セシウムが長期的に移行すると予想されます。したがって、これらの放射性セシウムをどのように管理するのかが、森と川の恵みの汚染を軽減する上で重要であると考えられます。

最近の研究では、森林の表土に蓄積する放射性セシウムが山菜などの有用植物に移行することを抑えるための応用研究が展開されつつあります。例えば、表土そのものを除去する除染を行う事例のほか、セシウムと類似した化学的性質をもつカリウムを施肥したり放射性セシウムを強固に吸着する粘土鉱物を添加したりする事例もあります。これらの対策の有効性を確認することが必要となる一方、これらの対策に伴う人為的な環境改変が森林生態系に及ぼす影響も同時に評価していく必要があります。すなわち、なるべく本来の生態系が持つ機能を損なわずに、森の恵みの汚染低減をめざす応用研究の展開が期待されます。

河川内では、貯水ダムなどに蓄積した放射性セシウムがどのくらい溶け出し、どの程度水生生物の汚染や下流への放射性セシウムの拡散に寄与するのか、その動態を明らかにする研究が展開しつつあります。今後は、これらの動態研究の成果にもとづいて放射性セシウムが溶け出す量を抑えるような管理手法(例えば、浚渫など)の提案につながる研究の展開が望まれます。

地球上で400 を超える原子力発電所が稼働し、気候危機対策としての原子力への期待もみられる中、福島第一原子力発電所事故は、ひとたび環境が放射能汚染に見舞われたときの汚染管理の困難さを明示しました。研究者は、これからも環境中の放射性セシウムの動態を解明しながら放射性セシウムが集積する場所をどのように管理する必要があるのかを明らかにしていかなくてはなりません。それによって得られた知見を様々な主体と共有しながら、真の復興へ向けて協働関係を構築することが求められています。

(国立環境研究所などの研究成果。国立環境研究所ウェブサイトから転載(一部改編))