放射性物質の動き-森林Radioactivity Dynamics in forests

(2021年 更新)

森林内でのセシウムの動きと空間線量率の関係を教えてください。

原子力機構は森林総合研究所(以下、森林総研)及び筑波大学と連携し、両機関の観測結果を基に森林内に放射性セシウムが分布する精緻なモデルを構築し、放射線シミュレーションを実施しました。
その結果、2017 年以降、森林内の放射線量の大半が森林土壌の表層5 cm以内にある放射性セシウムに由来することが分かりました。この結果から、今後の放射線量の推移はその放射性セシウムがどのように移動するかによって決まることが分かります。

森林内に存在する放射性134Csおよび137Cs原子から発生するガンマ線が森林の放射線量(観測点)にどのように寄与するかを示す模式図

図1 森林内に存在する放射性134Csおよび137Cs原子から発生するガンマ線が森林の放射線量(観測点)にどのように寄与するかを示す模式図

森林総研、筑波大学及び原子力機構の研究者は、2011年3月以降、精力的に森林測定調査を行い、網羅的かつ豊富なデータを蓄積していることから、今回それらの機関と研究連携を進め、協力して森林のシミュレーションモデルを構築しました。構築したモデルを用い、森林内の樹冠、幹、リター層、土壌層内の放射性セシウムの分布と、それらの物質密度も入力することで、放射性セシウムから放射されるガンマ線の量、すなわち放射線量を森林内の任意の地点で計算することが可能となりました(図1参照)。

ガンマ線のシミュレーションには、原子力機構内で開発された放射線挙動解析コードPHITSを用い、放射性134Csおよび137Csの崩壊によって放出されたガンマ線が辿る経路と物質との散乱をシミュレートします。シミュレーションでは、森林内の様々な部分にある放射性セシウムの森林内の放射線量に与える影響を部分ごとに計算することで、放射線量に対する各々の影響(すなわち割合あるいは%)が判明します。

東日本の9つの森林の放射線量(空間線量率(μSv/h))に対する、樹冠、幹、リター層、土壌の上部5cm以内、土壌の内部5〜20 cmからの寄与とバックグラウンドからの寄与の経時変化

図2 東日本の9つの森林(石岡のみ茨城県で他は福島県)の放射線量(空間線量率(μSv/h))に対する、樹冠、幹、リター層、土壌の上部 5 cm以内、土壌の内部 5~20 cmからの寄与とバックグラウンドからの寄与の経時変化
混交林とは 2 種以上の樹種から成る森林です(広葉樹と針葉樹の混交林となっています)。
なお、測定やシミュレーションには僅かですが誤差が含まれます。

シミュレーションの結果の一例を図2 に示します。図2 から分かるように、放射線量は年と共に減少する一方、各森林内の各成分の割合が大きく変化してきたことが分かります(グラフでは2011 年の東京電力福島第一原子力発電所の事故から最大 6 年間の結果を示しました)。

図2 を詳細に見ると、2011 年(事故が起こった年)当時は、樹冠と幹にあった放射性セシウムが放射線量の重要な要因の1つでした。しかし、その後、放射性セシウムが林床へと移動したため、その影響はその後数年で急速に減少しました。次に、リター層にある放射性セシウムは、2012 年から2015 年の間、放射線量に大きな影響を及ぼしましたが、2017 年(一部は2016 年)には、リター層から土壌層へと移動したことで、土壌の上部5 cmが森林の放射線量の最も重要な要因となったことが分かります。この結果から、将来の森林における放射線量の変化は、森林土壌の上部5 cmにある放射性セシウムの動きにより決まることが分かります。
さらに、この結果を基にすると、森林内の放射線量をコントロールするには、どのような森林管理が有効であるかが明らかになります。例えば、森林の土壌を覆うリター層だけを除去する除染を実施すると空間線量率はどのように変化するか、また、木片を一定の厚さで敷き詰めると、どう変化するか等が計算できる一方、今後も落葉落枝が継続し、徐々にリター層が更新されることで放射線量がどう変化するかの予測も可能になります。

この研究により、2017年以降、土壌表層の上部5cmにある放射性セシウムが、2011年の原子力発電所事故の影響を受けた森林内の放射線量の最も重要な要因となっていることを明らかにしました。この研究で開発したモデルは、放射線量が将来どのように変化するかについての様々な仮説を詳細に比較分析可能とするだけでなく、今後実施する森林管理の影響を評価することも可能とします。例えば、間伐、皆伐、リター層の除去等の方策は、森林内に分布する放射性セシウムの位置や量を変える一方、放射性セシウムから発するガンマ線の遮蔽という効果も変化させます。これらは、互いに反対の効果を与え、かつ簡単な関係では表せないため、上記のような様々な方策を実施する場合、放射線量がどう変化するかは、シミュレーションを実施しないと、明確に推定することができません。私たちは、このようなシミュレーションの特徴を活かし、今後の有効な森林内の放射線量低減に向け、現実的な提案を行うこと等を目標にさらなる研究開発を進めて行きます。