被ばく線量評価・除染Assessment of Exposure Doses and Decontamination
(2021年 更新)
Q家屋による線量低減係数とはどのようなものですか。(その2)
A家屋の除染を行うと、被ばく低減係数※は除染前よりも大きくなることが分かりました。これは、遠方の線源や被覆された線源の寄与が大きくなることが原因だと考えられます。
※ 被ばく低減係数:屋外に留まった場合に受ける線量に対して、屋内に留まった場合に受ける線量の比
東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を受けた地域では、地表等へ沈着した放射性物質によって外部被ばくが生じていることが知られています。この経路からの被ばく線量を評価するためには、空間線量率の違いに応じて住民の生活行動の場所を区分し、それらの場所での滞在時間と、その場所の空間線量率を明らかにする必要があります。
本研究では、住民の生活行動を、木造屋内・コンクリート屋内・屋外に区分して、各場所での滞在時間を調査しました。また、木造屋内において、屋外に比べてどのくらい被ばくが低減されるのかを実測して調べるため、調査協力者の自宅を訪問して、家の中と外の空間線量率を実測して比較しました。さらに、調査協力者に外部被ばく線量を測定するための個人線量計を配布し、どのくらいの放射線を被ばくしているのかを実際に測定してみました。
調査の結果、木造屋内・コンクリート屋内・屋外における屋内作業者と屋外作業者の1日当たりの平均滞在時間と、木造家屋の被ばく低減係数を評価することができました(表1)。なお、木造屋内での被ばく低減係数は、屋外の地表から高さ1 mと屋内の床から高さ1 mでの空間線量率の比として定義しました。
この結果、屋内外で測定される空間線量率は除染によって低減されるものの、それらの比で表される被ばく低減係数は、福島市内の除染がおおむね完了した2015 年以降、除染前よりも大きくなることが分かりました。これは、除染を行うと、遠方の線源や被覆された線源の寄与が大きくなることが原因だと考えられます。
図1 に示すように、これらの線源からの放射線は、地表面上の障害物や被覆物(土壌等)によって遮へいされ、遮へいの効果は、線源からの入射角度が大きくなるほど小さく、測定点の高さが高いほど線量率が高くなることになります。このため、除染が行われた場合、屋内の床から1 mのほうが(屋外の地表から高さ1 mよりも高い地点となるので)空間線量率が下がりにくく、これらの空間線量率の比として定義される被ばく低減係数は、除染後に大きくなったと考えられます。
また、表1の結果を用いて住民の被ばく線量を評価しました。被ばく線量は、木造屋内・コンクリート屋内・屋外の空間線量率と滞在時間を乗ずることで計算でき、各場所の空間線量率は、屋外のモニタリング結果に被ばく低減係数を乗ずることで算出しました。
被ばく線量の評価結果を図2 に示します。この図には、現地調査で得られた実測値と、国際的に最もよく知られた国連科学委員会(UNSCEAR)の評価結果も併せて示しています。
この結果から、第一に、表1 に示した滞在時間と被ばく低減係数で評価した個人線量は、実測値をよく再現しており、その妥当性を検証することができました。第二に、UNSCEARによる事故後1 年目の評価結果は過小評価である可能性が示唆されました。これは、UNSCEARの評価において木造家屋の被ばく低減係数に0.15 という値を利用しているためです。第三に、国の長期的な線量の目標値である1 mSv/年と比較すると、事故後8 年目の福島市において、今回の実測及び評価結果の範囲では、屋内作業者及び屋外作業者のいずれもこの基準を上回る住民はいないことを確認することができました。
関連するQ&A
参考文献
- Takahara, S., Iijima, M. and Watanabe, M. (2020): Assessment Model of Radiation Doses from External Exposure to the Public after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident, Health Physics, vol. 118, no. 6, 664–677. https://doi.org/10.1097/HP.0000000000001176
- Furuta, T. and Takahashi, F. (2015): Study of Radiation Dose Reduction of Buildings of Different Sizes and Materials, Journal of Nuclear Science and Technology, vol. 52, no. 6, 897–904. https://doi.org/10.1080/00223131.2014.990939