放射性物質・空間線量率Radioactivity and Air Dose Rate

(2024年 更新)

事故後の空気中のセシウム濃度はどのように変化していますか。

避難指示区域外における調査地点4か所で測定した空気中137Cs濃度の経時変化から、いずれの地点においても減少傾向であることが確認されました。また、事故後5年以降、空気中137Cs濃度が除染によって急速に減少し、半分程度まで減少したことが分かりました。

2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故後の住民の内部被ばく評価の観点から、空気中の放射性セシウム(137Cs)濃度のモニタリングが継続的に行われています。発電所からの放出がなくなった現在において、大気中への137Csの主要な供給源は、地表面からの再浮遊と考えられています。測定しにくい空気中の137Cs濃度を、測定しやすい地表面の137Cs沈着量で除して求められる再浮遊係数(RF)を評価しておくことは、広域に情報を得られやすい地表面の137Cs沈着量から空気中の137Cs濃度を容易に推定することができ、広域を対象とした内部被ばく評価に有効です。

本研究では、そのようなRFの事故後の長期的な変動傾向の特徴を評価するために、原子力規制庁が1F事故後から継続的に実施し、広く公開している空気中の137Cs濃度測定結果を解析しました。また、その結果をチョルノービリ事故時の既報結果と比較しました。また、データを人の出入りが制限されていた避難指示区域の内側と外側で比較することにより、人為的活動の影響を評価しました。

空気中の137Cs濃度の測定は、2013年5月から2017年11月まで、避難指示区域内2か所及び避難指示区域外4か所で、1か月ごとに実施されました。地表面の137Cs沈着量は、文部科学省による第3次航空機モニタリング調査に基づいて再評価された137Cs沈着量の分布図のデータを用いました。
空気中の137Cs濃度測定結果は、観測期間中の全ての地点において、時間とともに減少する傾向を示しました。特に避難指示区域外では、事故後5年以降において、急速な減少が見られましたが、これは除染の影響によるものと考えられます(図1)。

空気中137Cs濃度の経時変化

図1 空気中137Cs濃度の経時変化

避難指示区域外における調査地点4か所で測定した空気中137Cs濃度の経時変化から、いずれの地点においても減少傾向であることが確認されました。また、事故後5年以降、空気中137Cs濃度が除染によって急速に減少し、半分程度まで減少したことが分かりました。

除染以外の人為的活動の影響を評価するため、事故後2年から除染が行われる前の事故後5年までの期間におけるRFの変動傾向を単指数関数モデルにフィッティングして比較しました(図2)。避難指示区域内外で比較すると、避難指示区域外の方がRFは高く、実効半減期が速いことが分かりました。避難指示区域内は風などの自然現象由来の再浮遊が主な要因であることに対して、避難指示区域外は自然現象由来に加え、人為的活動由来の再浮遊があるためだと考えられます。避難指示区域外でRFの減少が速いのは人為的活動で再浮遊するような成分の減少が速いためであり、人為的活動で特に再浮遊が起こりやすい場所(道路、農地など)では、再浮遊する137Cs濃度の減少が速いことを示唆しています。

再浮遊係数の経時変化と実効半減期

図2 再浮遊係数の経時変化と実効半減期

除染前の再浮遊係数(地表面から空気中へ飛散する割合)は、実効半減期(係数が半分になるまでの期間)で比較すると、避難指示区域内(0.29年)よりも避難指示区域外(0.22年)の方が速く、また、福島の方がチョルノービリ事故の時(0.64年)より速く減少することが分かりました。

また、本研究で得られたRFの変動傾向についてチョルノービリ事故の既報の報告結果と比較しました(図2)。本研究でモデル化した福島のRFの半減期は、本研究と同じ単指数関数モデルで示されたMüller*の結果よりも短く、特に避難指示区域外はその傾向が顕著であることが分かりました。
これらの知見は、福島における被ばく評価の推定に活用できるだけでなく、地表面の汚染がある場所における今後の内部被ばく評価のパラメータ決定に重要な知見であると考えられます。

* Müller, H. et al., Model Description of the Terrestrial Food Chain and Dose Module FDMT in RODOS PV6.0, RODOS(RA3)-TN(03)06,2003, 55p.