放射性物質の動き-森林Radioactivity Dynamics in forests
(2022年 更新)
Q樹木内の放射性セシウム濃度は季節によって変化しますか。
A森林総合研究所は、きのこ原木が採取されるコナラ萌芽林を調査し、コナラ当年枝の放射性セシウム濃度は開葉してから7月までは大きく変化し、8月から翌年4月にかけて安定していることを明らかにしました。本成果により、利用可能な原木林判定の調査期間が大幅に拡大し、関連事業のさらなる推進が期待されます。
福島県では、阿武隈地方を中心にきのこ栽培に利用されるコナラなどの原木生産が盛んに行われていましたが、2011年3月に発生した福島第⼀原子力発電所事故で放出された放射性セシウムにより、その原木林が汚染されてしまいました。原発事故から10年以上経過した現在もその影響は続いています。きのこ原木として利用可能なコナラの幹の放射性セシウム濃度は50Bq/kg を指標値とされ、その指標値以下の幹を採取できる林分を簡易に(伐倒などせずに)判定する手法の確立が望まれています。そのような状況の中で、原木として利用されるコナラの幹の放射性セシウム濃度と、その当年枝の放射性セシウム濃度の間に⼀定の関係が成り立つことを利用して、伐倒することなく、当年枝から幹の濃度を推定する手法の開発が進められています。しかし、その推定に使用されるコナラ当年枝の調査は、樹木の成長が止まる11月から翌年3月までの休眠期に実施されることが前提となっており、採取可能な時期が限定されていることが調査推進の上で課題となっています。
2018年から2020年にかけて、きのこ原木の主産地であった福島県田村市都路町で、コナラ当年枝の放射性セシウム濃度の季節変動の調査を行いました。原発事故後に伐採更新された計6か所のコナラ萌芽林で、調査地ごとに5本のコナラを選定し、同じ個体から継続的に当年枝を採取・分析して、その放射性セシウム濃度の季節安定性を調べました。その結果、コナラ当年枝の放射性セシウム濃度は、11月から翌年4月までの休眠期中の濃度には統計的な差がなく、安定していることが明らかになりました(図1)。8月から10月までに採取された当年枝の放射性セシウム濃度も、11月から翌年4月までの濃度よりも高いものの安定しており、係数(0.75±0.10)を乗じることによって11月から翌年4月までの濃度に換算できることが分かりました。つまり、従来⾔われていた11月から翌年3月だけでなく8月から10月と4月においても放射性セシウム濃度が安定しており、原木利用部位である幹の濃度推定に利用可能であることがわかりました。
- 全ての観測結果は、半減期に従っての放射壊変による観測期間中での放射性セシウム濃度の自然減少の影響を除くため、2018年6月1日時点での濃度に再計算した値を図で示しています。
また、2018年から2020年までの採取年の区別なく濃度を図示しています。 - 田村市都路町と気候(気温など)が異なる地域では、図中の調査可能な期間が変化すると予想されます。
横軸は、福島県田村市都路町でコナラが展葉を始める5月初旬を起点にしています。縦軸の「規格化した放射性セシウム濃度」は、観測期間の放射性セシウム濃度の平均値をゼロに設定し、その変動幅を標準偏差で割ったものです。これにより、2018年から2020年までに複数の調査地で得られた大小様々なコナラ当年枝の放射性セシウム濃度をまとめて比較することができます。くぼみのある灰色の四角の中央の線が中央値、その上下の灰色の範囲が中央値の95%信頼区間を示しています。この灰色の範囲を(5月1日を起点とした)日数で比較した際に、青色の点線で囲まれた部分のように重複が見られる場合は、その中央値に統計的な差がないことを意味しています。
本研究は、これまで5か月間(11月から翌年3月まで)に限られていた当年枝の調査時期を9か月間(8月から翌年4月まで)に拡大可能であることを科学的に初めて示したものであり、コナラ当年枝から幹の放射性セシウム濃度を推定する手法を開発し実用化する上で、重要な知見となります。今後も、利用可能なコナラを判定する手法や技術の開発・研究を継続していきます。
(森林総合研究所などの研究成果。森林総合研究所ウェブサイトから転載(一部改編))