放射性物質の動き-森林
放射性物質の分布状況

1. 経緯


2011年3月11日に発生した太平洋三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震とそれに伴って発生した津波により、東京電力ホールディングス株式会社 福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)の事故が発生し、その結果、福島第一原発の原子炉施設から環境中へ大量の放射性物質が放出された。
事故状況の全体像を把握して影響評価や対策に資するために、日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。)や多くの研究機関が調査研究を行っている。本解説では、福島県内における放射性物質の分布状況と、山地森林における沈着状況について、解説する。

2. 放射性物質の分布状況


(1) 放射性物質の分布状況

文部科学省からの委託を受けた原子力機構が多くの大学や研究機関と協力し、2011年6~7月に放射性物質の分布状況等に係る調査を行った。この調査においては、福島第一原発から概ね100km圏内の約2,200箇所について、表層5cmの土壌を採取し、核種分析を実施した。得られた結果は、各地点の単位面積(1 m2)あたりの深さ5cmまでに存在する放射性セシウムである134Cs及び137Csの放射能(Bq)を示す「沈着量」に換算され、その値が公開された1),2)(図1、円で示された箇所)。
原子力機構は、さらにこの値を用いて、クリギングと呼ばれる方法により地点間を内挿補間することで100mメッシュデータを作成した2)(図1、着色部分)。

図1 クリギングにより内挿補間し作成した100mメッシュデータ

図2 福島県東部の阿武隈川流域及び浜通りの主要13河川水系部分
国土交通省『国土数値情報(土地利用細分メッシュデータ)』

次に、このデータを用いて、福島県東部の阿武隈川流域及び浜通りの主要13河川(北から、宇多川、真野川、新田川、太田川、小高川、請戸川、前田川、熊川、富岡川、井出川、木戸川、夏井川及び鮫川)水系を対象に、137Csの沈着量を土地利用区分ごとの把握することとした。
土地利用については、国土交通省が作成した「国土数値情報(土地利用細分メッシュデータ)」に示される土地利用区分3)を参照した(図2)。

先述した100mメッシュデータと土地利用区分から各土地利用区分に沈着した137Cs量を計算した結果、137Csはその70.8%が森林に沈着し、次いで22.3%が田を含む農地に沈着していることが分かった(Kitamura et al. 2014、一部改変)(表1)。
なお、図1に示す100mメッシュデータにおいては、事故当時の河川・湖沼へのフォールアウトの挙動は不明な点が多いため、河川・湖沼を含む範囲の沈着量はゼロとしている。しかしながら、図2に示す土地利用区分はこれと異なるメッシュで区分がされているため、土地利用区分「河川・湖沼」における初期沈着量はゼロとはなっていない。

表1 土地利用ごとの面積と137Cs初期沈着量

土地利用 面積 137Cs初期沈着量
km2 Bq
森林 5,329 63.7 9.2×1014 70.8
1,157 13.8 1.6×1014 12.3
農地(田を除く) 852 10.2 1.3×1014 10.0
建物用地 457 5.5 6.8×1013 5.2
その他用地 147 1.8 1.7×1013 1.3
荒地 152 1.8 1.6×1013 1.2
河川・湖沼 156 1.9 1.1×1013 0.8
幹線交通用地 67 0.8 1.0×1013 0.8
ゴルフ場 47 0.6 3.5×1012 0.3
海浜 1 0.01 1.9×1011 0.01
合計 8,365 1.3×1015

(2) 山地森林における放射性セシウムの沈着状況

  • 図3-1 山地の放射性セシウムの沈着イメージ

  • 図3-2 樹木に着生する地衣類(下、ウメノキゴケ類)

挙動評価の基となる沈着量評価には、少量の試料量で迅速かつ簡易な方法が望まれる。また、プルーム毎にCsの化学形態が異なり挙動に差異が生じる可能性が考えられる。そこで、2012年度より試料採取が容易でCsを取込む地衣類(菌類と藻類の共生体)(図3)に着目し、Csの環境中での分布や移動性に影響を及ぼす沈着挙動・化学種を、地衣類を指標として評価する手法の開発を行っている。その際、広範囲で評価手法を適用できるよう、我が国の公共用地に広く生育するサクラに着生する地衣類(ウメノキゴケ類)に着目し、空間線量率の低い地域から高い地域、異なるプルームの影響を受けた地域が含まれるように調査範囲を設定し、地衣中のCsの濃度と初期沈着状況との関係性を調べている(図4)。
2015年度からは、山地の地衣類に含まれる放射性セシウム濃度やその化学形態を調べることによって、事故初期の放射性セシウムの沈着状況を明らかにするとともに、山地内の詳細な沈着量分布(標高や方位との関連性)を調べ、山地内での放射性セシウムの挙動理解と予測を進めている。

図4 地衣類を指標とした沈着量評価のイメージ

CsIシンチレーション検出器を用いて測定した地衣類中のCs濃度(2012年度に採取)の結果および、福島第一原発事故から約3か月後に文部科学省により採取・測定された土壌中のCs沈着量から、試料採取地点のCs沈着量を推定し、地衣類中のCs濃度との関係を調べた。その結果、調査地域から採取した9種のウメノキゴケ類の137Cs濃度と、土壌中の137Cs沈着量との間に良好な相関関係があることを見いだした(図5)。これは、福島第一原発事故から約2年経過しても、地衣類に取り込まれた放射性セシウムが保持され続け、その濃度が当該事故当初の放射性セシウム降下状況を反映しているためと考えられる(Dohi et al.2015)。さらに、「キウメノキゴケ」、「マツゲゴケ」の2種が調査地点で優占的であったことから、これらの種を指標種として活用していくことが期待できる。今後は、地衣類中の放射性セシウム濃度の時間変化を調べ、当該事故後初期の降下量の推定に役立てていく予定である。

図5 福島県内で採取した地衣類中の放射性セシウム濃度と土壌沈着量の関係


参考文献

  1. Dohi, T., Ohmura, Y., Kashiwadani, H., Fujiwara, K., Iijima, K.(2015)Radiocaesium activity concentrations in parmelioid lichens within a 60 km radius of the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant, J. Environ. Radioact., Vol. 146, pp. 125-133
  2. Kitamura, A., Yamaguchi, M., Kurikami, H., Yui, M. and Onishi, Y.(2014)Predicting Sediment and Cesium-137 Discharge from catchment in Eastern Fukushima, Anthropocene, Vol.5, pp.22-31
  3. 国土交通省国土計画局:国土数値情報(土地利用細分メッシュデータ)
  4. 文部科学省、農林水産省(2012)東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故に伴い放出された放射性物質の分布状況等に関する調査研究結果,平成23年度科学技術戦略推進費「重要政策課題への機動的対応の推進及び総合科学技術会議における政策立案のための調査」「放射性物質による環境影響への対策基盤の確立」報告書
  5. 山口正秋, 前川恵輔, 竹内真司, 北村哲浩, 大西康夫(2013)土壌移動に着目した福島第一原子力発電所事故後の放射性物質分布に関する解析手法の開発, 日本原子力学会, バックエンド部会, 原子力バックエンド研究, Vol. 20, No.2, pp.53-69