環境動態に関する解析的研究

概 要

原子力機構の福島環境動態研究における解析的研究の目的は、調査から推定された現象を組み合わせることで実際に起こっている現象を確認するとともに、将来の環境中の放射性セシウムや線量率の分布を予測し、必要な対策を検討することです。

モデルにおいて、過去のモニタリング結果を統計処理することで将来に外挿するという統計的アプローチが存在します。しかし、本プロジェクトでは除染や移行抑制などの対策の効果を評価、予測することも視野にしており、統計的アプローチではそれらに対応することは困難です。そのため、本プロジェクトでは、重要な物理・化学的現象を個々にモデル化する現象論的なモデリングアプローチを主としています。

森林内では放射性セシウムは樹木、落葉層土壌層の中で循環を生じ、一部は山菜や野生鳥獣類などに取り込まれ、一部は河川に流出します。河川やダム湖では浮遊物質に付着した状態、あるいは溶存態として流下し、一部は河床・湖底あるいは河川敷に堆積し、あるいは再浮遊し下流へ移行します。土壌中では表層付近に沈着した放射性セシウムが時間とともに緩やかに深部に移行し、そのために空間線量率物理減衰以上に低下します。

解析的研究では、このような森林や陸地での放射性セシウムの挙動、森林・陸地から河川、ダム湖を経由して海に至る過程を網羅的に対象としています。しかしながら、全ての現象を網羅的に表現する唯一のモデルを開発することは困難であり、また、本来モデル化という行為は簡素化により現象の本質を浮き彫りにすることであることを考えると、過度に複雑なモデル化は好ましくないため、強みの異なる複数のモデルを開発・整備し、検討する課題の規模や現象に応じてモデルを使い分けることとしています。

また、将来予測や対策検討の指標として、外部被ばくに対応する線量率内部被ばくに対応する農林水産物中の放射性セシウム濃度までを対象としています。

解析的研究でこれまで対象としてきた主な課題は、以下の通りです。

  • 中長期的な放射性セシウム分布、空間線量率分布の評価
  • 河川から海に流出する放射性セシウムの流出量の評価
  • 大雨時の放射性セシウムの河川、ダム湖での挙動の評価、放射性セシウムの堆積による線量率変化の評価
  • 生物利用性の高い溶存態放射性セシウムの挙動の評価
  • 環境中の放射性セシウムの動態が農林水産物中の放射性セシウム濃度に与える影響の評価

これらの課題に対応すべく、これまでに整備してきた主な解析モデルを図1に、各課題との対応関係を図2に示します。

環境動態研究で整備した主な解析モデル GETFLOWS SACT mDSF TODAM,Nays2D,FLESCOT,ROMS/SWAN,3次元並列計算コード 空間線量率評価コード コンパートメントモデル

図1 環境動態研究で整備した主な解析モデル
図中のボックスをクリックすると、関連した成果の解説を見ることができます。


解析的研究の検討課題と解析モデルの関係

図2 解析的研究の検討課題と解析モデルの関係

問合せ先

国立研究開発法人
日本原子力研究開発機構 福島廃炉安全工学研究所

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