農地

 深度方向の放射性セシウム濃度分布及び耕盤の深度を調査したうえで,攪拌希釈・反転耕(天地返し)・表土剥ぎ取りの何れを適用するかを決定することが重要です。表層から深さ5cm程度に80%以上の放射性セシウムが付着・残留する傾向がありました。事故直前に田起こしている農地では,田起こししていない農地よりも深くまで放射性セシウムが浸透しており,トラクタの轍等の凹凸により濃度分布がばらつきました。事前に,剥ぎ取り機の走行回数と剥ぎ取り厚さ及び除染率の関係を把握し,施工方法を決定する必要があります。固化剤散布については,湛水状態(水がある状態)のほ場及び冬季の低温環境下のほ場では固化剤が固まらないため,適用条件を満たす範囲で使用することが重要です。

 事故の直前に田起こししていない農地では,放射性セシウムによる汚染の多くが地表面から深さ5cm 程度の表土にとどまっていることから,表土を削り取る「表土剥ぎ取り」も実施しました。この「表土剥ぎ取り」では,草刈り後,表土を剥ぎ取り,剥ぎ取った表土をフレキシブルコンテナへ詰め込むという手順で実施しました。剥ぎ取る表土の厚さは,除染前の土壌サンプリングの測定の結果や,除染前に試験的に表土の剥ぎ取りを実施して,効率的に線量を低減できる厚さを調査した結果から決定しました。表土剥ぎ取りは,バックホウ(機械)をおもに利用しましたが,畝のある畑等では鋤簾等を用いて人力で表土剥ぎ取りを行いました。また,果樹園(梨園)では,地表面から1.6m の高さにワイヤを使用した棚があったため,背丈の低い超小型機械(バックホウとクローラダンプ)を使用しました。この他,薄層表土剥ぎ取り機による表土剥ぎ取り(2cm)も試行しました。これは,ハンマーナイフモア式草刈り機をベースにした薄層表土剥ぎ取り機により表層2cm程度までの草根の切断とほぐしを行うもので,ほぐした土壌はバックホウで回収しました。

 土を固める薬剤(固化剤)を土壌表面に散布し,固化した土壌表層を削り取る「固化剤散布による表土剥ぎ取り」を実施しました。これは,草刈り後,農地表面への固化剤を混合したスラリーの散布,養生(一定期間の静置),固化した表層土壌のバックホウ等の機械により剥ぎ取り,剥ぎ取った表土をフレキシブルコンテナへ詰め込むという手順で行うものです。固化剤を用いた表土剥ぎ取りでは,固化剤を散布することで表土が灰白色にマーキングされるため,取り残しや取りこぼしの目視確認が可能となり,作業の効率化や,表土を固化することによる土壌の飛散抑制効果が期待できます。固化剤にマグネシウム系固化剤またはセメント系固化剤を使用しました。これらの固化剤は,氷点下では固化しないため,冬期の使用には,気温などの注意が必要です。

 土壌の上下入れ替えを選ぶには,現地の土壌の放射性セシウムの深度方向の分布だけでなく,田畑の規模,将来の農業利用,地権者の希望も考慮する必要があります。土壌の上下入れ替えとしては,トラクターに牽引されたプラウにより30cm 深さで,放射性セシウムで汚染された表層付近の土壌(表層土)と下層にある土壌(下層土)を反転させる「反転耕」を実施しました。また,「天地返し」という,表層土及び下層土を一時的に撤去した後,下方に表層土を,上方に下層土を埋め戻す方法を利用しました。これは,十分な耕盤の深度があることを確認した後,地表面から深さ5 cm 程度を「表層土」,深さ5cmから50cm までを「下層土」として,天地返しを行うものです。なお,施工にあたっては,表層土剥ぎ取り厚さ5cm の精度を保つため,法面バケット付のバックホウを使用するとともに,表土を剥ぎ取った後の掘削には,汚染の拡散を防止するために他のバックホウを使用しました。

表1 農地の除染方法毎の特徴比較(土壌剥ぎ取り)
表2 農地の除染方法毎の特徴比較(反転耕等)
適用した除染方法の例(農地)
図1 適用した除染方法の例(農地)