分析の方法
JAEAによる第三者分析では、海洋放出前のALPS処理水に含まれるトリチウム及びトリチウム以外の核種の濃度などを測定します。
現在、信頼性の高い分析の実施に向け、準備を進めています。
それぞれの分析フローは以下のとおりです。
トリチウムの分析について
ALPS処理水中のトリチウム濃度を第三者の立場で確認します。
ALPS処理水中のトリチウム濃度は、前処理により測定を妨害する不純物を除去した後、トリチウムが放出する比較的低いエネルギーのβ線を効率的に測定可能な液体シンチレーションカウンターを用いて測定します。
この測定法は、環境中に存在する放射性核種を効率よく、かつ正確に測定する方法として国の定めた『放射能測定法シリーズ9「トリチウム分析法」』に準拠しています。
蒸留により測定を妨害する不純物を除去し、トリチウム水を精製します。
蒸留:
試料を加熱することで、沸点の違いを利用し、分析対象である核種を精製します。
ALPS処理水中のトリチウムは、酸素と結びついてトリチウム水として存在するため、蒸留を行うことで測定を妨害する不純物を除去し、トリチウム水を精製します。
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トリチウムが放出する比較的低いエネルギーのβ線を、効率よく測定可能な液体シンチレーションカウンターを用いて濃度を測定します。
液体シンチレーションカウンター:
放射線が当たると光を発する物質(シンチレータ)から発生した光を検出することでトリチウム濃度を測定します。
トリチウムが放出するβ線は、紙一枚で遮られるほどの比較的低いエネルギーであり、試料容器の外へほとんど出てきません。
そのため、トリチウムの測定では、液体のシンチレータを試料容器内に加え、シンチレータが出す光を検出することで、効率よくトリチウム濃度を測定します。
なお、β線の測定方法として、容器の外にシンチレータを置いて測定する方法(プラスチックシンチレータを用いた方法)もありますが、トリチウムの測定には、液体シンチレーションカウンターを用いる方法がより効率的です。
(参考)
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基準となる値やこれまでの測定結果と比較することで、第三者分析の分析値の妥当性を確認・評価します。
※写真は試験期間中のものを含むイメージです。
実際の分析時とは装備などが異なる場合があります。
トリチウム以外の核種の分析について
トリチウム以外の核種の濃度が、基準を満たしている(規制基準値未満である)ことを第三者の立場で確認します。
ALPS処理水のように複数の放射性物質を含む場合は、含まれる放射性物質の影響を総合的に考慮した規制基準値が適用されます。
具体的には、核種それぞれの濃度を、規制基準値(告示濃度)で割った値の合計値が1未満であれば、放射性物質の放出基準を満たしているとされます。この値を「告示濃度比総和」と呼びます。
前処理により測定を妨害する不純物を除去し、分析対象である核種の分離・精製などを行います。以下のように、核種ごとの性質に適した装置で測定します。
・放出されるα線の測定
・放出されるβ線の測定
・放出されるγ線の測定
・質量分析装置による測定
測定を妨害する不純物やよく似た放射線を放出する物質を、カラム抽出などの様々な方法で除去し、分析対象である核種の分離・精製などを行います。
ALPS処理水の第三者分析で用いる前処理には、以下のような方法を用います。 |
カラム抽出: 特定の物質を抽出する樹脂など(固相抽出剤)が充填された容器(カラム)に、溶液を通すことで分析対象である核種を分離・精製します。 |
カラム抽出の例 |
気体捕集: 試料の酸性度などを変化させることで、気体を追い出し、分析対象である核種を分離・精製します。 |
気体捕集装置の例 |
沈殿生成: 試薬を用いて沈殿を生成させ、分析対象である核種を分離・精製します。 |
蒸発濃縮: 溶液中の水分などを蒸発させ、分析対象である核種の濃度を高めます。 |
蒸発乾固: 溶液中の水分などを完全に蒸発させ、分析対象である核種を固化します。 |
蒸発乾固の例 |
分析対象の核種ごとに、放出されるα線、β線、γ線といった放出される放射線の種類などを考慮し、適切な装置を用いて測定します。
ALPS処理水の第三者分析でトリチウム以外の核種の測定には、次のような装置を使用します。 |
α線シンチレーション測定装置(ZnSシンチレータ):
【測定対象の例:Pu, Am, Cm】 放出されたα線の個数を測定することで、核種を定量します。 |
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液体シンチレーションカウンター:
【測定対象の例:C-14, Ni-63】
放射線が当たると光を発する液体(液体シンチレータ)から発生した光を測定することで、核種を定量します。主に低いエネルギーのβ線を放出する核種の測定に使用します。 |
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β線スペクトロメータ(プラスチックシンチレータ):
【測定対象の例:Sr-89, Sr-90, Y-90】 放出されたβ線のエネルギーと個数を測定することで、核種を定量します。 |
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γ線スペクトロメータ(Ge半導体検出器):
【測定対象の例:Co-60など】
放出されたγ線の強度と個数を測定することで、核種を定量します。 |
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誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS):
【測定対象の例:I-129, Tc-99, U, Np】
試料溶液をプラズマによりイオン化し、核種ごとの質量と信号の強度を測定します。極微量の核種の定量に使用されます。 |
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基準となる値やこれまでの測定結果と比較することで、第三者分析の分析値の妥当性を確認・評価します。
また、基準を満たしている(規制基準値未満である)ことも確認します。
※写真は試験期間中のものを含むイメージです。
実際の分析時とは装備などが異なる場合があります。
多核種除去設備(通称「ALPS」)、ALPS処理水
トリチウム
放射能測定法シリーズ
放射線
規制基準値
告示濃度、告示濃度比総和