成果報告会

令和6年度 福島廃炉安全工学研究所成果報告会


「令和6年度 福島廃炉安全工学研究所成果報告会」でのご質問及び回答


セッション1 環境回復:「ふくしまの環境を取り戻すために」

ご質問内容 回答
1Fからのトリチウム・Cs137等核種の放出につき、東電・国が広範囲の海域で海水中濃度を、毎日即日分析結果を、1ヶ月後詳細分析結果を公開しています。そしてすべて基準値以下となっています。それら核種の陸上での環境動態は、資料11ページに模式的に描いてあります。JAEAの陸上の動態追跡結果と、東電・国が計測している沿岸域の濃度結果とをつなぐべく、比較検討はされておりますでしょうか?
国内外の一部から、1Fは事故炉なので、トリチウム以外の核種濃度が有意であることが問題と、指摘を受けます。事故時環境放出された核種の、陸上環境動態の解析と分析の結果、そして沿岸海域の濃度と相関が取れてほしいと思います。広範囲の海域での複数核種の海水中濃度分析と海流解析を継続して行っている先生から、すべての核種で、すでにほぼ平衡状態に達していると伺いました。
このように、海を含めた環境動態の全体の濃度追跡結果を、オンラインで世界に発信していくことは重要と思います。
1F事故に起因しての放射性物質の放出がおさまっている現状においては、海水から検出される放射性核種は、陸域から河川水系を通り、海に放出される放射性核種が主と考えられます。そのため、我々の研究においても、陸域の放射性核種の動態に基づき、沿岸域における放射性核種の濃度の測定結果を解釈するための調査や解析を進め、一部、東電・国との比較検討を行いました。
トリチウムについては、シミュレーションツールによる解析の結果、1Fの港湾からの放出が約1 km以内のモニタリング地点の濃度に影響を与えていること。また、河川からのトリチウム放出の影響は、平常時には河口周辺に限定されているが、台風時などは沿岸域にも影響が及び、海水中の濃度は約0.1 Bq/L程度になると推定されることなどを明らかにしました[1]。
セシウム137については、河口付近の沿岸域で観測したところ、河川からの浮遊懸濁物質とともに流入する量は年間7%程度であり、河川からの流入は主に台風などの豪雨時に起こるが、台風の2日後には台風前とほぼ同じ水準に戻ること[2]などを明らかにしました。
このように、陸域から近い沿岸域における放射性核種の濃度測定結果に対する流入の影響は限定的で、東電・国が計測している沿岸海域濃度の測定結果への影響も限定的と考えられます。
今後も環境モニタリングを継続するとともに、新たに明らかになった濃度変化等の解釈については論文等で広く発信いたします。

[1] Sakuma, K., et al., Marine Pollution Bulletin, 192, 115054 (2023).
[2] Misono, T., et al., Journal of Coastal Research, 114, 315-319 (2020).


セッション1 環境回復:ポスターセッション「環境中の極微量の放射性ヨウ素を検出する」

ご質問内容 回答
以前別の発表にて、CRCセルにO2+CO2ガスを導入しておられましたが、今回、導入されたオゾンとO2+CO2ガスと比較して、それぞれのメリット・デメリットは何ですか。 O2+CO2の混合ガスを用いたヨウ素-129(129I)の測定方法に関しては、測定においてヨウ素-129と干渉を引き起こすキセノン-129をO2との反応で除去しつつ、ヨウ素-127の2水素化物(127IH2)をCO2と衝突させることで除去することが可能となりますが、この衝突反応により、目的元素のヨウ素-129もはじき出されるため、測定感度が10~20%程度まで低下してしまうという課題がありました。
今回、開発した測定手法は、オゾン(O3)を用いることで、ヨウ素を酸化させ、ヨウ素の2酸化物(129IO2+:質量数161)に変換して検出する技術となります。この技術は、ヨウ素より酸化しにくいキセノン-129が質量分離され、なおかつヨウ素-127の2水素化物の発生が抑制されることで、ヨウ素-129の測定感度を維持しつつ、干渉物質を除去することを可能としました。
これにより、オゾンを用いた測定方法の方がO2+CO2よりも5~10倍以上の高感度となり、土壌表層、海藻、雨水、大気等の環境試料に含まれるより低濃度のヨウ素-129の分析が可能となりました。また、加速器質量分析装置の分析可能範囲の一部を担い、より迅速なデータ提供を行うことができます。
なお、デメリットとしては、測定の際にオゾンを随時生成して供給しているため、供給濃度にばらつきが発生する可能性があります。
そのため、オゾン濃度計を接続し、オゾン濃度を確認しながら測定を行う必要があります。
また、ヨウ素129の分析について、ICP-MS/MSで分析されていますが、本法についてICP-MSでの導入も可能でしょうか。 ICP-MSでも同様の測定を行うことが可能だと考えますが、注意点がございます。
ICP-MS/MSでは、ガスを導入する反応セルの前段に四重極を1つ配備し、干渉を引き起こす安定同位体ヨウ素(127I)などを除去することができます。
ICP-MSの場合では、干渉を引き起こす物質を除去できないため、ヨウ素-127などの干渉物質を多量に含む試料に関しては、測定への干渉の影響が大きくなる可能性があるため、その影響の有無を確認しながら測定をする必要があります。

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