さいえんす・すてーしょん

2024.9.27


理科実験 分析 林業 水蒸気蒸留法




 水蒸気蒸留法で香り成分を抽出してみよう


水蒸気蒸留法は液体に含まれる成分を蒸気の力を使って抽出する方法です。
香り成分は空気中に広がりやすい性質があるため、市販のアロマオイルなどは水分と蒸気圧を使って抽出する方法が主流となっています。
今回は実験用圧力なべを使用して、福島県産木材からの香り成分の抽出を行ってみました。



植物に含まれる香り成分の正体は?


植物の香り成分の多くは「テルペン」という化学物質のグループに含まれます。
テルペンは自然界で生成される化学物質で、常温環境下で液体から気体に変化する揮発性化合物です。
ミントに含まれるメントールのほか、柑橘類に含まれるリモネン、オレンジオイルなどもテルペン系に属しています。

テルペンはアロマとしてだけではなく、塗料や洗剤、医薬品など、身の回りの様々な場所で活用されています。


テルペンの一種、ヒノキチオールの分子構造


水蒸気蒸留法で抽出する


準備するもの

・実験用圧力なべ
・IHヒーター
・蒸し台、蒸し布
・水
・香り成分を抽出する植物
 (今回はスギの枝葉、スギのおがくず、ヒノキのおがくずの3種類を用意)
・冷却器
・チューブ
・ビーカー

圧力なべのなかに、抽出元となる植物を入れていきます。なべの底には水を入れて、蒸し台を置きます。
植物がなべ底に落ちないように蒸し布を引いた上から、抽出元となる原料を入れていきましょう。
今回はスギの枝葉もしくは、スギのおがくず、ヒノキのおがくずを使用しました。



約1kgのスギのおがくず


約1kgの原料を蒸気が通るよう、ふわっとなべに入れ、ふたをし、水蒸気蒸留法が行えるようにセッティングしていきます。


水蒸気蒸留法を行うためのセッティング


圧力なべからチューブを伸ばし、冷却管につなぎます。
今回使用したジムロート式冷却管は、ガラス管内に水を通して冷却する方式であるため、冷却用の水を通すために排出入用のチューブも接続しました。
冷却管の下には、冷やされた蒸気が液体となって出てくるので、それを溜めるビーカーをセットしておきます。

180℃で熱すること約3時間。冷却管から原料の成分を含んだ液体が出てきました。



木材の成分を含んだ蒸気が冷やされ、液体として抽出される

しばらく抽出液を集め、表面のわずかな油分をスポイトで吸い出すと、今回はヒノキ枝葉からは約3ml、スギとヒノキのおがくずからはそれぞれ約1mlのアロマオイルを分離することに成功しました。


抽出できたオイル


蒸留前後の木材を観察してみよう


スギ枝葉、スギおがくず、ヒノキおがくずのそれぞれの蒸留前後の様子を顕微鏡で確認してみましょう。


ヒノキ枝葉_蒸留前
ヒノキ枝葉_蒸留後
ヒノキおがくず_蒸留前
ヒノキおがくず_蒸留後
スギおがくず_蒸留前
スギおがくず_蒸留後

ヒノキ枝葉は加熱によって細胞壁が壊れたのか、加熱前に見えていたつぶつぶがなくなり、葉緑素が失われ、赤みがかって見えます。

おがくずはヒノキもスギもほとんど変わりがありませんでした。木材の骨格となるセルロースの構造は過熱してもほとんど変化しないことが分かります。



アロマオイルの成分を分析する


吸光光度計を使用して成分の分析を行ってみました。
吸光光度計は試料に含まれる成分が多いほど光が吸収されることを利用した装置です。
試料に光を当て、通り抜けた光を測定することで、試料がどれくらい光を吸収したか調べます。




紫外可視(UV-Vis)吸光度スペクトル

物質によって異なる波長の光を吸収する性質があるため、グラフのようにサンプルごとにピークの位置が異なります。このピークの位置からオイルに含まれている成分を同定することができます。
他の分析手法(質量分析、ガスクロマトグラフィー等)を組み合わせることでより詳細に成分を調べることができます。

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