多核種除去設備(通称「ALPS」)、ALPS処理水
多核種除去設備(通称「ALPS」)は、福島第一原子力発電所で発生した汚染水に含まれる放射性物質の浄化処理を行う設備です。
ALPSなどを使い、トリチウム以外の放射性物質を規制基準値以下まで浄化処理した水がALPS処理水です。
多核種除去設備(通称「ALPS」:Advanced Liquid Processing System)とは、汚染水に含まれる放射性物質の浄化処理を行う設備で、人や環境に与えるリスクを低減することを目的とした設備です。
薬液による沈殿処理や吸着材による吸着など、化学的・物理的性質を利用した処理方法で、トリチウム以外の62種類の放射性物質を取り除きます。
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放射線
放射性物質が放出する粒子や電磁波を放射線と呼びます。放射線はその種類に応じてさまざまな性質を持ち、それぞれ呼び名が異なります。
ALPS処理水の分析には、これらの性質を考慮し、適切な装置を用います。
主な放射線には、ヘリウムの原子核であるアルファ(α)線、電子であるベータ(β)線、電磁波であるガンマ(γ)線、中性子である中性子線があります。
放射線は、物体を通り抜ける力(透過力)があり、種類によりその力は異なります。
例えば、アルファ(α)線は透過力が低く、紙一枚で遮ることができます。透過力が高いガンマ(γ)線を遮るためには、鉛や鉄の厚い板が必要になります。
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トリチウム
トリチウムは、水素の放射性同位体で、3HやH-3、Tといった記号で表され、比較的低いエネルギーのβ線を放出します。
トリチウムはβ線を放出した後、放射線を放出しない安定同位体のヘリウム(3He)となります。
 トリチウム水のイメージ
トリチウムは、陽子1個と中性子2個を持つ水素の放射性同位体です。自然界においても宇宙空間から地球へ常に降り注いでいる放射線(宇宙線)と、地球上の大気が交わることで発生します。
宇宙線により発生したトリチウムは、酸素と結びついた「トリチウム水」として雨水や水道水のほか、私たちの体内にも存在しています。
「トリチウム水」は水とほぼ同じ性質であるため、トリチウムだけを分離することは極めて難しく、ALPSなどによる浄化処理へ適用できる実用化レベルの技術は確認されていませんが、
分離技術の実用化の可能性について幅広い調査などが実施されています。
トリチウムは、国内外の原子力施設でも発生しますが、それぞれの国の規制に基づいて管理されたかたちで海洋や大気などに排出されています。
トリチウムが放出する放射線の種類は、β線のみです。 β線は、薄い金属板などで遮ることができますが、なかでもトリチウムが放出するβ線は、
紙一枚で遮られるほどの比較的低いエネルギーです。
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放射性同位体
同位体(原子核の陽子数が同じで、中性子数が異なる元素)のうち、放射線を放出する性質を持つもののことです。一方、放射線を放出しない同位体を安定同位体と呼びます。
ALPS処理水に含まれるトリチウムは、水素の放射性同位体です。
原子番号が等しく質量数が異なる元素(原子核の陽子数が同じで、中性子数が異なる元素)を同位体と呼びます。このうち、放射線を放出する能力(放射能)を持つものを放射性同位体と呼びます。
例えば水素の場合、通常は陽子を1個で、中性子を持たない状態が大半ですが、陽子を1個と中性子を1個を持つ重水素、陽子を1個と中性子を2個を持つ三重水素(トリチウム)という同位体が、
ごくわずかに存在します。このうち水素、重水素の原子核は安定した状態であり、放射線を放出しませんが、三重水素(トリチウム)の原子核は不安定な状態であり放射線(β線)を放出します。
放射性同位体は、放射線を放出して放射線を放出しない安定した状態に変化します。
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放射能測定法シリーズ
放射能測定法シリーズは、トリチウムなどの環境中に存在する放射性核種を効率よく、かつ正確に分離・定量するための方法として、国により定められている標準マニュアル※です。
※:文部科学省、『トリチウム分析法』(平成十四年改訂)
放射能測定法シリーズは、環境中に存在する放射性核種を効率よく、かつ正確に分離・定量するための方法として、環境試料などの放射能分析・測定方法の基準となるマニュアルです。
現在、トリチウムの分析方法を含め、36種のマニュアルが整備されています。
福島第一原子力発電所の事故の知見や最新の技術などを反映するため、原子力規制庁により順次改定が進められています。
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ISO/IEC17025
ISO/IEC17025は、試験所や校正機関などの能力を認定する国際標準規格です。
ISOは国際標準化機構、IECは国際電気標準会議を意味します。これら2つの基準を統合し、国際的な品質保証の規格(国際標準規格)として制定されたものをISO/IECと呼びます。
ISO/IEC17025は、世界的に権威のある第三者機関が、試験所や校正機関に正確な測定や校正結果を生み出す能力があるかを認定する国際標準規格です。
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規制基準値
原子力発電所などから環境中に放出される放射性物質の量は、国際的な勧告に基づき、人体への影響が生じない量が規制基準値として定められています。
放射性物質はその存在の有無や含まれている種類の多さではなく、「追加的な公衆被ばく線量(人体に与える影響)を、年間で1ミリシーベルト未満にする」ことを基本に規制基準値が定められています。これはICRP(国際放射線防護委員会)という国際機関の勧告に基づいています。
規制基準値は、どの原子力施設でも一律に適用されます。
ALPS処理水の海洋放出などを行う際は、ALPSなどによる放射性物質の浄化処理に加え、ALPSで除去ができないトリチウムの濃度を下げるため、
希釈(海水で100倍以上に希釈)が行われます。これは、ALPS処理水中に存在する規制基準値以下の「トリチウム以外の核種」をさらに希釈することにもつながります。
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告示濃度、告示濃度比総和
環境中に放出することができる放射性物質の濃度限度は関係法令(告示)※で核種ごとに定められており、これを告示濃度と呼びます。
また、複数の放射性物質を含む場合は、核種ごとの濃度に対する告示濃度限度に対する割合を足し合わせて評価することになっており、
この足し合わせた値を告示濃度比総和と呼びます。
※:原子力規制委員会告示、『放射線を放出する同位元素
の数量を定める件』(令和二年(2020年)三月十八日)
国際的な勧告をもとに定められた日本の規制基準では、原子力施設から環境中に放出する場合の液体・気体廃棄物に含まれる放射性物質の濃度が、核種に応じて決められています。
水中・空気中に特定の核種が含まれる場合、どのくらいの濃さまで許容することができるかは、関係法令(告示)で具体的な値が定められており、「告示濃度」とも呼ばれます。
ALPS処理水のように複数の放射性物質を含む場合は、規制基準値は含まれている複数の放射性物質の影響を総合的に考慮して定められます。つまり、特定の放射性物質の有無や、放射性物質ごとの含有量の多い、少ないではなく、総和として規制基準値を満たすように管理をするという考え方です。このようなケースでは、「告示濃度比総和」と呼ばれる考え方が用いられます。
「告示濃度比総和」とは、液体・気体廃棄物に含まれる核種それぞれの濃度を、告示濃度限度で割った値(告示濃度に対する割合)の合計値のことです。この値が1未満であれば、放射性物質の放出基準を満たしているとされます。
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