放射線の性質と健康への影響

 放射線は,X線装置やCTスキャナーなどの装置,宇宙,また私たちの足下の地盤からも出てきます。これらの放射線は組織を通過しますが,放射線の種類(アルファ線,ベータ線,ガンマ線,中性子線)とそのエネルギーによって,通過の仕方が変わってきます。その上,環境に存在する放射性物質は,経口摂取や吸入により体内に取り込まれ,そのまま維持され,様々な器官,組織に内部被ばくを生じさせます。

 健康への悪い影響は,外部被ばくと内部被ばくのいずれでも起こります。被ばくの程度は,被ばく線量によって表され,それは組織の単位量あたりに吸収されるエネルギーの量(kgあたりのジュール)です。線量および線量率が高ければ,確定的に影響が生じ,これらの重篤度は線量の増加と共に上がります。それは,線量には,臨床的に検知できず健康への悪い影響はない,というしきい値があることも意味しています。このような種類の影響としては,放射線による皮膚のやけど,赤色骨髄の機能抑制などがあります。そのような確定的影響は,通常の作業場所条件での被ばくや公衆の環境被ばくでは一般的に心配はありません。考慮すべきは,癌や遺伝性の病気が誘発される可能性です。その影響の重篤度は線量によって変わることはありませんが,受ける線量が増加するにつれて誘発される確率が増加します。線量と影響の確率との関係については,いろいろな提唱がなされていますが,しきい値のない線形的な関係が公衆衛生上の安全サイドに立った目やすと見なされ,規制で使用されています。しかし,原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は,最近,しきい値のない線形的な関係を適用して,自然バックグラウンド以下の低レベル線量の漸増的な被ばくによる健康被害を受ける人数を推定しないよう勧告しています。照射を受けたどの集団の子孫にも一般的な影響を超える影響はこれまで観察されたことがありません。