インタビューINTERVIEW

福島研究基盤創生センター、
中山所長に聞く。

東京電力ホールディングス福島第一原子力発電所(1F)の廃止措置に向けて、日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構)では次々と新たな研究開発拠点を創設。この4月には、昨年から準備を進めていた楢葉遠隔技術開発センターの本格運用もスタートしました。今回はその楢葉町の施設と大熊町に建設予定の分析・研究センターを統括し、廃炉推進の技術開発をサポートする重要な役割を担う福島研究基盤創生センターを率いる中山所長に、現状や展望を聞きました。

2つのセンターで廃炉に向けた基盤づくりを――。

――福島研究基盤創生センターの位置づけ、役割は?

 福島研究開発部門の役割は2つ。1つは環境の回復への関わり。もう1つが、われわれがオンサイトと呼ぶ 1Fの原子炉の廃炉への関わり。環境回復の方は「福島環境安全センター」が、廃炉の方は「福島研究基盤創生センター」と「廃炉国際共同研究センター」が対応します。

――福島研究基盤創生センターでは、楢葉遠隔技術開発センターが昨年の9月から一部運用を開始し、この4月から本格運用が始まりましたが?

 福島研究基盤創生センター内には、「楢葉遠隔技 術開発センター」と「大熊分析・研究センター」の2つのセンターがあります。センターばかりでちょっとややこしいので すが、楢葉遠隔技術開発センターでは、廃炉に必要なロボットなどの遠隔操作機器、また作業員の訓練に必要な バーチャル訓練機器などを備え、活用していくことが役割です。
 もう一つのセンター、現在設計段階の大熊分析・研究センターの役割は、サイト内の放射性廃棄物や炉に残って いる燃料デブリを分析し、処理や処分の方法を研究することです。こちらは2017年度内の運用開始を目指していま す。この施設は1Fサイトに隣接して建てる予定で、この5月から敷地の除染を始めます。
 ですから福島研究基盤創生センターは、文字通り、2つのセンターで廃炉に向けた技術基盤づくりを行うのが役割と いうわけです。

福島発の技術を国内外へ

――廃炉国際共同センターを始め、他の原子力関連機関との連携は?

 廃炉国際共同センターは研究者の集まりです。われわれは、わかりやすく言えばツールの開発が主たる役目。 この2つの組織が連携して福島研究開発部門として成果を上げていきたいと考えています。また、ここで培った知識 や技術を原子力機構全体に広めていきたいとも考えています。これまででわかりやすい典型的な事例が航空機を 使ったモニタリング技術です。機構内で昔開発され、今回の原発事故後に大いに活用されて技術的に実用化段階 まで成熟しました。実用化の部分は安全研究・防災支援部門の原子力緊急時支援・研修センターに、研究要素が ある部分は同部門の安全研究センターへと継がれ、全国の原子力施設立地地点に対する原子力規制庁緊急時モ ニタリングの一つの手段として活用されます。そんな「福島発の技術」が今後も沢山生まれると思います。

炉内で使うロボットの開発等やバーチャルリアリティー(VR)を用いた作業者の訓練

――楢葉遠隔技術開発センターに関してもう少し詳しく教えてください

 昨年10月、安倍総理もご出席になられ開所式を行いました。また、今年の3月30日には試験棟の完成式 が行われました。これでようやく準備が整い、4月からの本格運用となったわけです。
 試験棟の大きな特徴は、原子炉格納容器の下の部分をパイのように8等分した模型で、模型ですが実寸大です。 この設備を使い、原子炉格納容器の下部から漏れている冷却水を止める実証試験を行っています。この装置は国 際廃炉研究開発機構(IRID)が設置しているもので、試験棟の約半分のスペースを占めています。
 残りのスペースでは要素技術の開発を行っています。1つ目は、モックアップ階段を活用した実証実験。原子炉内 にはいろいろな寸法の階段や通路があり、そこをロボットがスムーズに動けるかどうかの実験実証を行っています。 ただ動けばいいというわけではなく、国際的な基準やがれきの上でも動ける標準を目標に取り組んでいます。
 2つ目は、水中作業を想定した水深約5mの水槽です。 水中ロボットの実証試験に使用していますし、水中カメラを備え、中からも作業が見えるような工夫もしています。3 つ目はモーションキャプチャーと呼ばれる設備です。昔はロボットの動きをカメラやビデオで撮ってその画像を目で見な がら改良していましたが、今は動きをカメラで撮り、定量化したデータに基づいて「速度・加速度がどうか」とか「角度 がどうか」とか多角的に精密に分析するのです。そのためのカメラが16台設置されており、作業状況を計測していま す。精密に分析していかないとロボット技術も進歩していきませんから。10m×10mの計測エリアを持つこの設備 は、今のところ国内では最大クラスです。
 一方、研究管理棟の方にはバーチャルリアリティ(VR)を用いた作業訓練システムがあります。これは特殊なメガ ネをかけて、まるで原子炉内に入っているような体験ができる設備です。事故後に炉内(2号炉)にロボットを入れ、 そのロボットが採ってきたデータとか、もともとの設計図面楢葉遠隔技術開発センターに関して もう少し詳しく教えてくださいからのデータを入力し、炉内のいろいろな設備の位置関 係や、ここから先は水没しているなど今の炉内の状況をできるだけ忠実に再現しています。空間線量率も再現してい ますので、何分間作業すると、どれくらいのシーベルトを被ばくするかもわかります。
 昨年の夏ごろから国内外延べ約2,500名が見学に来られました。
 ここまでのツールは揃えましたので、今後は、実際の廃炉での作業に役立つよう、この施設を研究者・技術者・作業者に利用してもらうことが現状の課題ですね。

課題は施設利活用の促進と人材の育成

――楢葉遠隔技術開発センターを廃炉に関わる人たちに利活用してもらうことが現状の課題というわけですね。

 はい、ここを活用して廃炉に役立つ技術を開発し、あるいは作業を身につけてもらうこと。そのためにも現 場のニーズに合う形に進化、アップグレードしていく必要があると思っています。また、廃止措置等に向けた中長期 ロードマップの工程に合わせてもう一つのセンター、つまり大熊分析・研究センターを建設・運開させることも現在の 課題です。
 先ほど、「福島発の技術」と申しましたが、人材育成の観点からも、ここ福島部門で培った技術や人を原子力機 構や日本国内に還元していく役割も担っていけるのではないかと考えています。
 これから建設する大熊分析・研究施設は大型ホット施設です。このような大型ホット施設は長らく原子力機構を 初め日本国内で建設されてきませんでした。そのためその建設や運転に通じた専門家は今や原子力機構内でも限 られてきています。そのような専門家がここ福島に集まり、大熊の施設を作りながら若い人たちを育てているわけで す。つまり大型ホット施設の建設・運転の専門家をここ福島で育成し、専門知識を原子力機構や日本国内に継承 するのだと考えています。
 さらに、学生たち若い人たちについても積極的です。今冬、福島高専が中心となって全国の高専などに声をかけ、 廃炉創造ロボットコンテストが企画されています。また先日、福島高専の情報コミュニケーションを学んでいる学生 たちとお会いする機会がありました。彼らは今の福島の状況をあまり知らない人たちに知らせる戦略や実践を普段 の授業の課題にしているそうで、遠隔技術センターも彼らのコミュニケーション素材に使われています。
 こうして、福島の施設には、ハードだけでなくソフトの面でもいろいろな期待をしていただければと思っています。

我々の役目を全うすることが福島の復興につながると信じて

――中山所長は4月に着任し、新体制になりました。今後、福島研究基盤創生センターが目指していくものとは?

 全く個人的な思い ですが 、福島に人々が戻ってくる、コミュニティが復活することを望んでいます。「福島を復興する」とよ く言われますが、人が戻ることだと思っています。そのために何をすればよいのか、今していることが何になっているのか、考えますね。廃 炉の技術開発からは飛躍しているかも知れませんが、その役割を全うすることが福島の復興につながるのだと信じ 役目を遂行しています。事故直後から2年ほど環境の除染に取り組んだときも、ぼんやりですが、そんなことを思ってました。
 それから情報発信。われわれが取り組んでいる廃炉や環境回復に向けた研究や技術開発は「世界初」になるこ とも珍しくありません。福島を始め国内はもちろん世界で役立つことを福島から発信し続けたいと思います。とくに 若い世代やこれから原子力に取り組もうとする原子力新興国の人たちにとって必須の情報ですよ。

――話は変わりますが、中山所長と福島の関わりは?

 3.11のときは東京で勤務していました。事故後の5月に、新設された福島支援本部に異動になり、主に環境支援業務に携わってきました。一番初めに取り組んだのが除染、中でも学校や幼稚園の除染が急務でした。
 田畑、山林、住宅を含む多様で広域の除染は未知の領域だったので、有効な除染方法の試験からのスタートでしたが試行錯誤の連続でした。それが当時、内閣府が行っていた除染モデル実証事業という巨大試験でした。そこでいろん な除染方法を試したり、自治体と話し合ったりして得られた知見はその後の環境省主体の除染事業に生きています。 今同じ福島研究開発部門に所属している職員の中にはそのときからの仲間というのが大勢いますよ。

――最後に廃炉に向けた今の思いをお聞かせください。

 繰り返しになりますが、「事故前に暮らしていた方々の一人でも多くの人に帰ってきてほしい」、単純にそう思います。事故後から2年間ほど、1F周辺の地域を訪れる機会が多かったのですが、建物や道路は徐々に復活しつつあるのに人がいない。この風景は本当に寂しいと感じました。その思いが強く印象に残っており、ここに1日でも早く人が戻ってこられるように、仕事を通して頑張っていきたい、それが原子力に携わってきた自分の責務だと思っています。また、今の福島で働き経験することが、ここで働く仲間ひとりひとりの誇りになるよう願っています。

中山 真一福島研究開発部門 福島研究基盤創生センター所長

工学博士。福井県出身。学生時代から20年以上、放射性廃棄物の処分が研究テーマ。福島での経験を原子力機構だけではなく日本、世界で役立せようと、現場でがんばる研究者や技術者にエールを送る。